アイルランドのミースで小作人の家に生まれたモーリスは、家族をこき使った地主のドラード家の人々、中でも自分に暴力をふるった長男に復讐するため、落ちぶれた一家が切り売りする土地を少しずつ買い集め、ドラード家が観光業に生き残りをかけて、屋敷を改装して開業したホテルの経営にかかわる権利さえも手に入れる。
一方で、資金が尽きたドラード家のために、ホテルの経営を裏で支える。ところが、モーリスのひとり息子のケヴィンは彼が苦労して手に入れた土地に興味を示さず、農場を継がずにアメリカに渡る。愛する妻にも先立たれてひとりきりになり、妻の二回目の命日に、因縁のホテルのバーで人生を振り返る。
妻が死んでからは新しい人間関係を築くのも億劫で、酒の力を借りながら、妻の面影を偲んで日々を送ってきた。もう体の自由も利かなくなり、いよいよ最期のときが迫っていることを知ったモーリスは、人生に彩りを添えてくれたかけがえのない家族のために5度祝杯をあげる。そして最後にホテルの部屋でみずから命を絶つ。
両親が土地を持たなかったせいで大変な苦労を強いられて、土地に固執し、ついに大地主になったモーリスをあっさり見捨てる息子。土地がなくても才能で世の中を渡っていける時代になったことは素晴らしいけれど、息子という生きがい、希望を失ったあとのモーリスは哀れ。
アイルランドで評判となり、2019年のYear Irish Book Awardsの新人賞を受賞、2021年にはDublin Literary Awardの候補にもなり、20カ国語に翻訳されています。アン・グリフィンのデビュー作で、4月に第2作Listening Stillが出ます。
アイルランド、復讐がテーマの作品の人気が高いように見受けられるのは、苦難の歴史に理由があるのでしょうね。