2021-03-24

本日の小確幸

翻訳に半年ほどかかった本の第1版第1刷第2回の支払い通知が、刊行から2年半たってようやく届きました。初回は保証された初版部数の一部のみ印刷して、残りは一定部数が売れてから印刷するという、無駄を出さないための版元独自の仕組みのようです。担当編集者さん、この本は売れますから、と、私の記憶が正しければ、たしか二度もおっしゃったし、この本の重要性を考えるともっと売れてほしいのですが、とりあえず最初の印刷分が大方はけたということで、当初お約束いただいた初版部数にようやく達したのが嬉しいです。しかも今回、印税率が初回より0.5%上がっていて、大変な状況のなかで配慮してくださったのだと思うと、しみじみとありがたいです。本を買って読んでくださった皆様、好意的な評を書いてくださった皆様のおかげです。ありがとうございます。

ここで、契約書を交わしているのに、事前に連絡もなく突然支払い条件が変わるのはありなのかという疑問は残りますが。そういえば電子書籍の印税も、契約書に記載されている数字より2%多くいただいてます。たとえ連絡はなくとも、もちろん上げていただく分にはぜんぜんかまいません。ちょっと寂しかっただけで。

Kindle版もまもなく発売予定。


#リパブリック: インターネットは民主主義になにをもたらすのか




2021-03-16

企画の持込を成功させるには

出版社やエージェントから原書読みを依頼されて書いたレジュメの数に比べれば、自分で原書を探してレジュメを書き、出版社に持ち込むところまでたどり着いた回数は数えるほど、おまけに持ち込んだ企画が通ったことはまだありません。経験不足故、持込に関して私に語れることはたいしてありません。代わりに経験豊富な先輩方に伺ったり、読んだりした内容をまとめると、一度断られたくらいで諦めたりせず、しぶとく粘って興味を持ってくださるところが見つかるまで何度でも挑戦するのが成功の秘訣のようです。企画のストックが何本もあるとおっしゃる先生もいらっしゃいました。仕事をひとつ確保するために繰り返し売り込むなんて大変だ。でもそれしか方法がないなら、やるしかありません。以前は、二度断られて理由が納得できるものなら、あっさり諦めていましたが、先輩方の経験談を伺って以来、関連資料は捨てずにとっておくようにしています。そういえば2社に断られて諦めた本が別の出版社から出たこともありましたっけ。翻訳者としてかかわれなかったのは悔しいですが、無事邦訳が出て、好評なのが救いです。幸運な出会いがいつどこで待ち構えているかわかりませんから、希望を捨ててはいけませんね。


私など、年齢的には高齢者の仲間入りをしていても、出版翻訳の世界ではまだまだ経験が浅く、当のジャンルを担当されている編集者のお名前を問い合わせ、レジュメをお送りするのがやっと。送り先が以前からお付き合いのある方だったり、優しい方だったりすれば、企画が通らなかった理由を添えてお返事をくださるので、では別の出版社に、と前に進めるのですが、超多忙な編集者がお返事をくださることは稀で、レジュメを送っても梨のつぶてということも多く、お忙しいのにたびたびお邪魔をするのも気が引けて、企画を気に入っていただけたかどうか問い合わせるだけの勇気を振り絞るのに時間がかかり、いつの間にか長い月日が経過していたことも。


ですが、何もせずに何カ月も待ち続けるのは考えものだと気づきました。一度、こんなことがありました。レジュメをお送りしたあとで、たまたまご本人にお会いする機会があり、「社内に興味を持っている者がいる」と伺ったので、大いに期待してまだかまだかと返事を待っていたら、いつの間にか別の出版社から邦訳が出ていたのです。このときはさすがにがっくりきたので、その後は1、2カ月待ってお返事がない場合は「いったん取り下げます」とお伝えすることにしています。すぐにお返事がないということは、1)企画にご興味がないか、2)お忙しすぎてまだ目を通していただいていないか、3)忘れられたかでしょうから、3)の場合に備え、さりげない催促もかねてご連絡することにしました。せっかく書いたレジュメを無駄にしないためには、今のところこれが最善の策じゃないかと思います。


と書いてはみたものの、失敗が続いたせいか、年のせいか、ひところほど原書探しに身が入らなくていけません。以前はずいぶん厚いノンフィクションのレジュメを書くほど燃えていたのに。原書の探し方も含めて、いろいろと見直しが必要なのかもしれません。

2021-03-14

断捨離その1:古い手紙や写真は老後の慰めになるのか

将来的には高齢者施設や長期療養施設への転居があるかもしれませんが、それを別にすれば、おそらくこれで最後になりそうな転居の予定が急浮上。9月に書いたブログ記事「移住願望:山の近くで暮らしたい」が現実となり、しばらくしたら今度は隣の県に引っ越して、かなり山に近づける見込みと相成りました。願望は願望として、実現は難しいと思っていたので、予想外の展開に驚いていますが、そうと決まったら、かなり本気で断捨離に取り組まないとなりません

結構かさばるのが手紙や写真で、縁遠い方のものから片付けているのですが、取捨選択が難しい。私がアメリカに留学していた1988年(一度目、第二言語としての英語集中講座受講)から9193年(二度目、大学院修士課程)にかけてはインターネットもそれほど普及していなかったため、日本の知人や家族、アメリカで知り合った友人・知人とのあいだでやりとりした手紙やクリスマスカードがかなりの数になりました。留学は私にとって思い出深い特別な経験だっただけになかなか捨てられず、あとで整理するつもりでまとめて箱にしまってあります。読まずに捨てて後悔したくないので、ひととおり読み返すのですが、すっかり忘れていた記憶があれこれ蘇ってきたりして、なおさら捨てがたくなることもしばしば。まずは文面の短いカードや絵はがき類からとりかかりました。


一度目の留学時はクラスの半分が日本人という、留学した意味に疑問が生じるような特殊な環境で、しかも短期だったので、手紙の数もしれていますが、二度目は学科の同期に日本人はおらず、アメリカ人の級友や他国からの留学生と親しくなれるほどの英語力もなく、学業のストレスで参ってもいて、その寂しさを手紙で埋めていたんでしょうね。あの頃は自分でも感心するほど筆まめでした。私との文通に付き合って、孤独な留学生活を乗り切る心の支えとなってくださった方たちには心から感謝しています。


断捨離していて気になるのは、今より年をとったときに、昔の写真を眺めたり、手紙を読んだりして、はたして慰められるものなのかということ。そういう年齢に実際に達してみないうちは想像するのが難しく、あれもこれも、もう必要ないだろう、と捨てかけては、いやちょっと待て、と思い留まったりしています。これは人生の先輩方にぜひ伺ってみたいところ。

2021-03-07

説得力のあるレジュメを書きたい

少し前まで、翻訳学校に通っていたときの先生からリーディングの仕事をいただいていたのですが、そのうち3点の邦訳が別の版元からつぎつぎと出版されていて(いずれもベストセラーだとか、有名な賞をとっただとか、といった話題作ではなく)、先生の作品を選ぶ目の確かさに改めてうならされるとともに、私のレジュメで企画が通らないということは、読み方・書き方に問題があるのかもと落胆しています。


レジュメがきちんと書けているかどうかを自分で判断するのは難しく、リーディングの講座を受講して、レジュメを客観的に評価してもらった感触では、それほど大きく的を外してはいないと感じたのですが、よい作品でも企画が通らないことが続いている以上、きちんと書けていないと考えざるを得ません。「作品のよいところだけでなく悪いところも指摘するのがよいレジュメ」という注意を鵜呑みにして、悪いところをバカ正直に書きすぎるのかもしれません。いいと思ったら少々の欠点には目をつむって全力で推すくらいで、説得力のあるレジュメを書くように心がけます。

2021-03-03

洋書案内5:The Secret Lake - 庭にあるトンネルを抜けると、そこは過去だった

The Secret Lake

【原題】The Secret Lake
【仮題】秘密の湖
【作者】Karen Inglis
【出版社】Well Said Press
【刊行時期】2011年
【著作権】著者
【ページ数】ペーパーバック122ページ
【ジャンル】児童文学/タイムトラベル(対象:8-11歳)



作者について

Karen Inglis

2人の息子がまだ幼い頃、子供たちのために物語の創作を始めた。息子たちが成長したあと、2010年に昔書いた物語を出版したのを手始めに、児童書を8点出版。本作は発売部数20万部を超えた。ロンドン在住。

あらすじ

トムは行方不明になった近所の犬ハリーを見つけようと広い庭を捜していて、深い穴を見つける。姉のステラとともに穴をどんどん下りていくと、そのトンネルは過去に通じていた。2人は昔その庭にあった屋敷に住む少女エマや使用人の息子ジャックと仲良くなり、スマホを使ってジャックを窮地から救う。現在に戻ってきたトムとステラは、彼らが暮らす家の大家のおばあさんが、穴の向こうで出会った少女と同一人物だと気づいて驚く。

解説

冒険の楽しさ、トムとステラが過去に戻ったときに仲良くなったエマやジャックとの友情物語、ジャックが泥棒の疑いをかけられた事件を見事に解決するトムとステラの奮闘、エマとハリーの時を超えた愛情物語がどれも面白くて、楽しくすいすい読めました。いくつか矛盾点はありますが、話がコンパクトにまとまっており、テンポよく進むので、ほとんど気になりません。フィリッパ・ピアス作『トムは真夜中の庭で』の現代版。