2020-08-23

原書リーディングの報酬について思うこと

しばらく前に、原書のリーディングの料金についてツイッターで話題になっていました。ざっと要約すると、リーディングの仕事は大変で時間がかかるので、報酬が安すぎるのは問題だという内容でした。何人かの方からいろんな状況のご報告がありましたが、おおざっぱにまとめてしまってすみません。

はじめてリーディングの仕事を受けたのは25年ほど前、それからしばらく、リーディングの仕事は翻訳エージェントや編集プロダクション、翻訳学校などを経由しており、報酬は5000円から1万円程度。予定していた支払いがないことはたまにあったし、レジュメを書いても、翻訳の仕事が回ってくることはまずありませんでした

10年ほど前に出版社や版権エージェントからこの仕事を受けるようになってようやく、人並みの報酬をいただくようになりました。なので、かなり長い期間、低めの料金で仕事を受けていたことになります。たまに2、3日で読めてしまう本もありますが、300ページを超える原書を1冊読んであらすじをまとめるのにたいてい2週間以上かかるので、さすがに5000円は割に合わないと今は思います。

ただ、報酬の相場が上がると、リーディングを経ずに邦訳出版を検討する事例が増えはしないかといらぬ心配をしてしまいます。ずいぶん前に本の翻訳が終わったあとで出版が取りやめになり、原稿がお蔵入りという事故を2度経験したのですが、いずれの場合もリーディングの工程を省かれて、翻訳原稿を読んでみたら思っていた内容と違ったというのが原因のようでした。

こうなることを防ぐためにも、リーディングは省かないでいただきたいものです。

リーディングに関してはむしろフィードバックがほとんどないことが残念です。長い時間をかけて書いた文章に、何かひと言でも感想をいただければ、レジュメを書く際の参考になるし、つぎのご依頼もお受けしようという気になります。

数えるほどしか訳書のない私のような翻訳者が意見を述べるのはおこがましいですが、リーディングはそれなりに数をこなしてきたので、思ったことを書いてみました。お蔵入りの件については書いてよいものか迷いましたが、どちらもすでに時間がたっており、関係者にご迷惑がかかることもないだろうと判断しました。この手の事故を避けるために、参考にしていただければさいわいです。

注)レジュメとは原書の邦訳を出すかどうかを出版社が判断する際に参考にする資料のことで、原書の書誌データ、あらすじ、内容の善し悪し、類書の有無などを数枚にまとめたものを指します。この仕事はリーディングと呼ばれ、多くの場合、翻訳者に回ってきます。シノプシスと呼ばれることもあります。