2020-12-22

洋書案内3:The Adventures of a South Pole Pig - 子ぶたが南極でそり引きに挑戦

Adventures of South Pole Pig 表紙

【原題】The Adventures of a South Pole Pig: A novel of snow and courage
【仮題】子ブタのフローラ、南極へ行く
【作者】文:Chris Kurtz 絵:Jennifer Black Reinhardt
【出版社】2015年リプリント版HMH Books for Young Readers(初版 Houghton Mifflin Harcourt)
【刊行時期】2013年2月
【著作権】文:2013年 Chris Kurtz 絵:2013年 Jennifer Black Reinhardt
【ページ数】ペーパーバック278ページ
【ジャンル】児童文学/冒険/動物(対象:10~12歳向け)


作者について

Chris Kurtz

幼い頃より物語が好きで、大きくなったら物語の主人公になり、冒険旅行をするのが夢だった。小説執筆のかたわら小学校を回り、パワーポイントを使って絵と音楽による特別授業を提供している。児童書はこれが4作目。

Jennifer Black Reinhardt


カーネギー・メロン大学でイラストを学んだのち、イラストレーターとして活動している。絵本、カレンダー、カードなど、多方面で活躍中。


*本書の主人公フローラを描く過程を動画で紹介していらっしゃいます。


あらすじ


農場で生まれた子ぶたのフローラは、農場の近くで訓練にはげむ犬ぞり隊を見かけ、自分もあんなふうにそりを引いてみたいとあこがれ、柵の中で練習をつんでいた。そんなある日、フローラはその犬たちと一緒にトラックで運ばれ、南極探検船にのせられる。フローラは自分も探検隊の一員としてそりを引かせてもらえるものと勘ちがいして喜んだ。

だが、乗船してみると、甲板の日当たりのいい場所に檻を与えられた犬たちと違い、フローラは船底の薄暗い場所にロープでつながれた。彼女は食糧として連れてこられたのだ。


航海の途中、フローラは、船内のねずみを退治するために連れてこられた猫のソフィアと協力して、ねずみを一網打尽にしてみんなの注目を浴びる。船が南極大陸にさしかかったときには、船が氷山にぶつかって船体に穴があき、自分もおぼれかけながら、溺れかけてぐったりしていた船長を助ける。


乗員たちは救命ボートで岸にたどり着くが、船とともに食糧も沈んでしまったため、遠く離れた補給基地から急ごしらえのそりで食糧を運んでくることになった。フローラもその一行についていき、途中で力つきた老犬オスカーに代役としてそりを引かせてもらうことになった。フローラはついに念願かない、そりを引いて得意満面で意気揚々と帰ってくる。フローラは船長からも乗員からも感謝され、犬ぞり隊の犬たちからも一目置かれるようになる。


やがて一行は近くを通りかかった船に救助され、港に帰る船の甲板で、フローラはつぎの冒険に思いをはせるのだった。


解説


ドリトル先生のシリーズを思わせる、動物が活躍する楽しい冒険物語。フローラが旅に出た先で何度も災難に遭った末に、ついにはそりを引いてみんなの役に立ち、実力を認めてもらうという、なんということのないストーリーですが、フローラが健気で、一生懸命で、明るくて、友達思いで、意志が強くて、へこたれず、勇気があって、と魅力たっぷりで、読んでいるうちに元気がわいてきます。動物同士のやりとりもいきいきとしていて、船内でのねずみ退治の場面や、自信をなくしてしょげる犬のオスカーをフローラが慰める場面など、随所に山場もあります。


ベーコンにされるはずだったフローラが努力することで運命を変えていく様子からは、諦めないことの大切さを学べます。


線画の挿絵も動物たちが表情豊かで愛らしく、魅了されます。


幼い子供でも夢中で読めそうな話ですが、船やそりの構造など難しい単語が出てくるからか、原書は10~12歳向けとなっています。


すてきな話なので、ぜひ日本でも出版していただけたらと思います。訳稿もあります。

2020-10-22

秋の雲

疲れたら ときどき空を 見あげよう

心が ふっと 軽くなるから 


羊雲

2020-10-14

洋書案内2:Peak - 少年クライマー、エヴェレストを目指す

Peak表紙

【原題】Peak (A Peak Marcello Adventure)
【仮題】少年クライマー、ピーク・マルチェロ
【作者】Roland Smith
【出版社】Houghton Mifflin Harcourt
【刊行時期】2007
【著作権】作者
【ページ数】ハードカバー256ページ
【ジャンル】児童文学/山(対象:中学生以上





作者について


Roland Smith

1951年生まれ。YA作家。少年クライマー、ピーク・マルチェロを主人公とするシリーズのほか、冒険もの、動物ものなど、作品多数。各種団体が主催する賞をいくつも受賞している。最初に勤めた職場がオレゴン動物園で、生物学者として20年以上、野生生物の救出と保護に携わってきた。邦訳書に『サーティーナイン・クルーズ 砂漠の果て』(角川書店)がある。オレゴン州ポートランドの農場で暮らしている。


作品について


Peak2008年、ニューヨーク公共図書館のティーン向け図書に選出されたほか、各種団体の推薦図書に選ばれた。


あらすじ


ピークの両親はともにクライマーだったが、父はピークが生まれてからも登山に夢中で家庭を顧みず、両親は離婚、やがて母は再婚し、妹も生まれた。しかしピークは父への思いを断ち切れず、遠くで暮らす父にたびたび手紙を書くのだが、返事は来ない。寂しさを抱えながら、父のような一流登山家を目指して、日々練習に励んでいた。


ピークは14歳のとき、マンハッタンの高層ビルの壁を無断でよじのぼり、不法侵入で現行犯逮捕される。そして、国外に逃れるか、未成年向けの矯正施設で一定期間過ごすかの選択を迫られる。


ピークの母は、タイで登山者向けの旅行会社を営んでいる元夫を頼り、彼に息子を預ける手はずを整える。ピークはタイを訪れ、久しぶりの父との再会を喜ぶ。だがそれも束の間、父は、エヴェレスト最年少登頂にピークを挑戦させるという、無謀な計画を用意していた。


ピークはエヴェレストの麓で訓練を積み、いよいよ頂上を目指す。だが、記録達成よりも大切なものがあると気づき、最年少登頂の栄誉を、登山をサポートしてくれた同い年のシェルパの少年に譲る。


解説


前出のThe Trailに作者が賛辞を寄せていたので、興味が湧いて読んでみました。構成がしっかりしており、テンポがよくて、ストーリー展開がなめらか。つねに死と隣り合わせのエヴェレストで限界に挑戦するピークに同化して、一気に読みました。ピークの父に対するわだかまりはずっと消えないものの、なんとか折り合いをつけつつ頂上に挑み、最後には自分の身を案じてくれる新しい家族の大切さに気づいたところで結末を迎え、読後、暖かい余韻が残ります。エヴェレスト登山で寒い思いをしたあとだけに、その暖かさが心に沁みわたります。ピークの妹たち(双子)が、脇役ながら最高にかわいくて、新しい家庭でのピークの心の拠り所となっているのがすてきです。



 

2020-10-12

狭山公園から東大和公園へ

多摩湖
多摩湖

ちょっとひと休み。


お天気がよかったので、休みをとった夫と出かけて、日頃の運動不足を解消してきました。野鳥がさえずり、秋の虫が鳴き、蝶が舞い、バッタが飛び跳ね、多摩湖を渡ってくる風が心地いい。そして、東大和公園にはキョエちゃんのお仲間もたくさん。ドングリが豊作で、カラスも興奮気味でした。


湧水の森ではツリフネソウがちょうど花盛り。絶滅危惧種だそうです。都会のすぐ隣の水源、大切に保護されています。

ツリフネソウ
ツリフネソウ

2020-10-08

洋書案内1:The Trail - 歩くことで悲しみを乗り越える

The Trail by Meika Hashimoto

【原題】The Trail
【仮題】アパラチアの山で見つけた宝物
【作者】Meika Hashimoto
【出版社】Scholastic Press
【刊行時期】2017年8月
【著作権】作者
【ページ数】ハードカバー229頁
【ジャンル】児童文学/山(対象:小学校高学年以上)





作者について

Meika Hashimoto
児童文学作家。メイン州の山中で育つ。ハイキング、登山が好きで、世界中の森や山を歩いてきた。現在はニューヨークで児童書の編集をしている。Scaredy MonsterThe Magic Cake ShopA Tale of Two Gardens、『トイ・ストーリー』シリーズ、『バービー』シリーズなどの著作がある。2020年10月に新刊Kitty and Dragon (Volume 1) が出る。

あらすじ

12歳の少年トビーは夏休みにアメリカ東部のアパラチア山中を縦断するトレイルをひとりで歩くことにした。ほんとうは前年の夏、友達のルーカスと一緒にその道を歩くはずだった。ところが、旅の直前にルーカスは事故に遭い、帰らぬ人となってしまった。両親が離婚したあと、ヴァーモント州に住む祖母の家に預けられたトビーにとって、ルーカスとの友情はかけがえのない大切なもので、友を失った悲しみは大きかった。トビーはルーカスと決めたゴールまで440マイルの道のりを歩き切り、2人の夏休みの計画をなんとしても達成したかった。

旅の途中、トビーは体力の限界や悪天候、険しい山道にくじけそうになりながらも、親切な人たちに助けられ、新しい親友となる犬のムーズとも出会って、友を失った悲しみから少しずつ立ち直っていく。

解説

こちらは昨年出版社にレジュメを持ち込んだものの、あえなく敗退した作品です。アパラチアン・トレイルについて調べていたときにこの本と出会いました。作者はメイン州のシイタケ・ファームで育ったそうで、日系のお名前に惹かれて読み始めましたが、作中、登場人物の人種に関する言及は特にありません。

大自然の中を何日も歩き続け、さまざまな困難と向き合うことで、悲しみから立ち直り、成長していく少年の物語は希望を与えてくれ、勇気が湧きます。私自身、歩くことが大好きで、大自然の中を歩くという行為には、悩みごとや悲しいことを忘れさせてくれる効用があると実感しています。


ブログに掲載するにあたって作品について改めて調べたところ、映画化の予定があることがわかりました。2019年の『Variety』誌の記事(英語)に詳細が出ています。その後、世の中の状況が大きく変わったので、順調に進んでいるかどうかは、今のところ不明です。


詳細なレジュメあります。



2020-10-07

こうして英語が好きになりました

家のテレビがまだ白黒だった小学生の頃、祖父母の住む母屋で、ときどきカラーテレビを見せてもらっていました。

当時、NHKで海外の歌手やバンドが出演する歌番組があり、鳥飼玖美子さんが通訳として出演されていました。「世界の音楽」という番組だったと、ネットで調べてわかりました。


その番組を見ている最中に、祖母が「なおちゃんもあの人みたいにおばあちゃんに通訳してくれるようになったらええなあ」と言ったのです。将来何になりたいかなど、その頃はまだ考えていませんでしたが、その言葉はずっと心に残っています。


もうひとつ、小学校低学年の頃に母が英語のアルファベットを教えてくれて、まだたいして漢字も書けないうちから、筆記体の練習などしていた記憶があります。


こうして自然に英語に触れているうちに興味を持つようになり、小学4年生の4月に、誰に勧められたわけでもなくNHKラジオの「基礎英語」を聞き始め、翌年も続けて「続・基礎英語」を聞いていました。基礎英語は北村宗彬先生、続・基礎英語が安田一郎先生の頃です。「続・基礎英語」は少し難しくて途中で行き詰まり、1年後にもう一度最初から聞き直しました。基礎英語って、なんと1926年に始まった長寿番組なんですね。


その後、東後勝明先生の「ラジオ英会話」も途切れ途切れにしばらく聞いていました。マーシャ・クラカワーさんとヴァレリー・ケインさんはよく覚えています。カリフォルニア出身のヴァレリーさんの軽いノリと耳触りの滑らかな英語が好きだったので、私の話す英語はたぶん少しカリフォルニア訛りなんじゃないかと思います。


中学で英語の授業が始まると授業が楽しくて、予習・復習は欠かしませんでした。その頃から洋楽にもはまりました。カーペンターズやジョン・デンバーといった、比較的穏やかな路線で、はじめて親に買ってもらった2枚のレコードのうちの1枚はカーペンターズでした。カレン・カーペンターもジョン・デンバーも若いうちに亡くなって、悲しかったですが、ふたりの歌声は今も大好きで、曲を聞くとあの頃を思い出します。ほかにも英語塾に通わせてもらったり、海外のペンフレンドと文通したり(メールもない時代で、文通が流行っていました)、英語にかける時間がだんだん長くなっていきます。


高校に入って翻訳という職業を意識したことをきっかけに、あとは英語街道まっしぐらで、ここまで来ました。昔、祖母に言われたことがずっと頭の片隅にあって、二十代の頃に一度、通訳の教室に通ったこともありますが、頭の回転が通訳向きではないと気づいて、早々に断念しました。


ずいぶん前に、占い師さんに前世は遣隋使だったと言われたことがあるのですが、そのときも通訳や翻訳をしていたのかもしれません。

2020-10-02

こんなふうに翻訳しています(辞書編)

普段使っている辞書・辞典類です。電子辞書やネットの辞書サイトを使うことが増えて、ほとんど使っていないものもありますが、記録もかねて、列挙してみました。


●英和辞典


・紙版

三省堂ウィズダム英和辞典 第2版

小学館プログレッシブ英和中辞典 第3版

研究社リーダーズ英和辞典(一冊、潰れて2代目です)


・電子

研究社リーダーズ+プラスV2 

小学館ランダムハウス英語辞典

大修館書店ジーニアス英和・和英辞典

研究者新編英和活用大辞典


辞書アプリはLogophile V.1.6


●英英辞典


Oxford Advanced Learner’s Dictionary of Current English

Longmont Dictionary of Contemporary English


●各国語辞典


伊和、西和、中和、中英・英中、独和、仏和、葡和辞典を用意しています。珍しいものでは、アイルランド語-英語の地名辞典なども。


●日本語まわり


・国語辞典

三省堂新明解国語辞典 第4版

三省堂広辞林 第6版

小学館新選国語時点 第9版

岩波書店広辞苑 第5版 電子版


・用字用語

日本語の正しい表記と用語の辞典第2版(講談社)

記者ハンドブック第13版、新聞用字用語集(共同通信社)、第9版もあります。


用字用語辞典は何種類か持っていましたが、どれも大きな違いはなさそうなので、今手元にあるのはこの2冊。


出版翻訳をするようになって、ゲラを修正するときにとても訳に立っているのが、こちらで、薄い本ですが、重宝しています:

校正記号の使い方 第2版(日本エディタースクール)


ほかに類語辞典、逆引き辞典、使いさばき辞典など各種。


●その他


インターネットが普及していない時代に集めた各種辞典、今はほとんど使いませんが、なかなか捨てられません。

建築事典、調理用語事典、印刷技術用語辞典、固有名詞発音辞典


正直なところ、ほとんど使っていない辞書もありますが、辞書はなかなか捨てられません。

以上、とりあえずのまとめです。追って更新します。

2020-09-27

『秘密の花園』再読

『秘密の花園』

作者はフランシス・ホジソン・バーネット(1849-1924)、昔一度読んでいますが、小学生の頃というだけで、何歳のときだったのかは覚えていません。学校の図書館で借りました。同じ頃に同じ作者の『小公女』と『小公子』も読んでいます。

今回読んだのは2006年に出た西村書店の完訳版で、訳は野沢佳織さん、グラハム・ラストの繊細で美しいカラーイラストが何点も入っています。


昔、読んだ版は、検索した表紙の画像と刊行年から判断して、たぶんポプラ社の世界名作童話全集に入っていた岡上鈴江編訳『ひみつの花園』です。岡上鈴江は童話作家の小川未明の娘さん。今回読んだ完訳版が354頁なのにたいして『ひみつの花園』は157頁しかなく、活字も大きかったはずなので、相当にカットされていたのだとわかりました。


以下あらすじです(ネタバレご注意)。


 メアリは父の赴任先のインドで暮らしていたとき、両親がともに伝染病で亡くなり、孤児となって、イギリスのヨークシャーにある広大な屋敷に住む、会ったこともないおじに引き取られます。
 おじのクレイヴン氏は10年前に愛する妻を亡くした悲しみから立ち直れず、また、妻にそっくりの顔立ちをした病弱な息子のコリンを避けて、1年の大半を海外で過ごしています。妻が死んだあと、彼女が大事に世話していた庭も、扉を閉じて鍵を隠し、封印してしまいました。そして誰も近づかぬようにと命じます。
 インドにいた頃、メアリの両親は仕事や付き合いに忙しく、彼女の世話は使用人に任されていて、いつも暗い顔をしたわがままな娘に育ちました。メアリは知った人のいないヨークシャーの屋敷で何もすることがなく、時間をもてあまして庭を歩き回るうち、閉ざされて久しい秘密の庭に入る扉と鍵を偶然見つけます。彼女はその庭に入ると、みんなに内緒でここに花を咲かせようと思い立ち、彼女の世話係であるメイドのマーサの弟ディコンの助けを借りて、庭道具と花の種や球根を用意してもらいます。そうして庭仕事に励むうち、最初は気難し屋だったメアリが、しだいに明るく元気な娘へと変わっていきます。
 一方、コリンは母を亡くしたあと、父に見向きもされず、自室に閉じこもって孤独に暮らすうち、心も体も病んでしまい、自分はもうすぐ死ぬのだと思い込んで一日中ベッドで寝て過ごし、泣き暮らしていました。メアリはその泣き声を聞きつけ、広い屋敷を探し回って、いとこのコリンの部屋を見つけます。同年代同士、ふたりはすぐに打ち解けて仲良くなり、メアリと話をするうちにコリンに明るさが戻ってきます。やがてコリンも車椅子を使って外に出て、庭造りに加わるようになります。そのうち魔法が働いて、コリンもすっかり健康を取り戻し、体も丈夫になり、車椅子を使わずに歩けるようになりました。
 ディコンの母親のスーザンはコリンが元気になったのを見ると、クレイヴン氏に手紙を書いて、すぐに屋敷に帰ってきてほしいと伝えます。屋敷に戻ったクレイヴン氏は美しく蘇った庭と健康になった息子の姿を見て、喜びに胸を震わせるのでした。

今回、読んでみて、こんなにも魔法や奇跡を強調した、ファンタジー色の強い話だったのかと、驚きました。

完訳版は、小学生の頃に読んだとしたら、少し長いと感じたかもしれません。簡略版は子供向けに物語のハイライトを上手にまとめてあって、だからこそ面白かった記憶がずっと残っていたのだと思いますが、完訳版を読むと、深みのある物語だとわかります。


領主と使用人の関係がこれほど良好なことは実際には珍しいだろうし、子供を叱る大人がひとりも出てこないのは不自然だし、そこからしてすでに奇跡、そもそも妻が死んだあと、悲しみのあまり家も息子もほったらかしで10年間も放浪している父親なんて、ナイーブすぎないかと、大人の私は思います。ですが、昔読んだときはそんなところで引っかかったりせず、庭が蘇るにとともにメアリとコリンが再生していくすてきな物語に、どっぷり浸っていたはずです。


だとしたら、大人の私も童心に帰って、現実的な矛盾点は忘れて、物語に浸るのがふさわしい読み方でしょう。魔法の世界に浸ろうといったん決めたら、あとはわくわくしながら夢中で読みました 動物の言葉がわかるという魔法使いのようなディコンが、この物語ではとても重要な役割を果たしています。メアリとコリンは庭仕事に精を出すことで、しだいに心身ともに健康になっていきますが、それはヒースの荒れ野でのびのび育ち、すべてをありのままに受け入れてくれる、大人びたディコンの助けがあったからこそ。教訓じみたところがなく、メアリとコリンが自分の意思で屋敷の外に出ていき、人のあたたかさや自然の美しさに触れるうちに本来の自分を取り戻していくという設定も、この作品を好きになった大きなポイントのひとつだったと、改めて気づきました。


『秘密の花園』はアニメにもなっていたんですね。今回調べ物をしていて知りました。

2020-09-21

こんなふうに翻訳しています(機械編)

最近は原書を読むときも翻訳するときも、たいていキンドル版かPDFファイルをPC画面で拡大表示して作業しています。おかげで、小さい文字を読み間違えることによる思い込みや勘違いがぐっと減りました。

翻訳するときは画面左上に原書、その下にテキストエディタのJeditを開き、画面右にWebブラウザと辞書ソフトのLogophileを開いて作業します。リーディングの際は、これに加えてMacのメモアプリ、スティッキーズを使って固有名詞やあらすじをメモしていきます。以前は原書を読みながらノートに手書きでメモしていて、この作業にずいぶん時間がかかっていましたが、キーボードで入力するようになって、時間が大幅に短縮できました。原書は数行ずつ表示します。そのほうが視線が移動したあとですぐに元の場所に戻れて、効率的です。


昔、ブラウン管のiMacを使っていた頃、平日の4日間、超特急のニュース記事翻訳をしていた時期がありました。その最中に機械が故障して、修理してくれる秋葉原のお店までタクシーに乗ってiMacを運んだことがあります。1日預けて帰りは宅配してもらったのですが、それに懲りて、そのあと2台続けて、手軽に運べるノートパソコンに変えました。ノートパソコンはコンパクトで場所を取らないので机を広々と使えますが、翻訳作業をスムーズに進めるには少し画面が小さすぎました。それに、画面が下にあるため、やや下向きの前傾姿勢が続くことになり、それも次第につらくなってきました。


そういう経緯を経て、7年前にMac mini23インチ液晶ディスプレイという現在の環境に変えたのですが、それ以降、作業能率は格段に向上しました。最近、翻訳者のデスクにディスプレイが2台並んでいる画像をよく拝見するようになり、私ももう1台増やそうかと検討したこともありましたが、この先、本体を買い換えることはあっても、ディスプレイを増やすことはもうなさそうです。


2020-09-17

「フェミニストのテキスト講座」文献邦訳リストを作りました

2020年6月刊行のステファニー・スタール著『読書する女たち』(イースト・プレス)に関して、本文で紹介している著作物のうち、邦訳のあるものをリストしてほしいという読者様のご要望を拝見しました。リストがあれば、読書の参考にしていただけるのではと思い、許可を得て、こちらに公開しました。

見つけられるかぎり最新の訳の邦題を掲載しましたが、漏れや誤りがありましたら、お手数ですが連絡フォームよりお知らせください。

長年の目標を半分達成

今週は週のはじめに立ち寄った書店で、最新訳書『読書する女たち』が外国文学の棚に並んでいるのを偶然見つけ、その喜びをかみしめて過ごしています。いつかここに並ぶ本を訳したいと、ずっと目標にしていた憧れの棚です。


最初にこの本のリーディングの仕事を紹介してくださったあと残念なことに急逝された翻訳学校時代の恩師にも、訳者として採用してくださったイースト・プレスの編集者様にも、感謝しかありません。


産業翻訳をしていた頃は比較的順調に翻訳道を歩んできたのに、出版翻訳に移ってから何度かつまづいて、向かないのかもしれないと途中で諦めかけましたが、続けてきてよかったです。


つぎは外国文学棚に並ぶ小説を訳すことを目標にがんばります。 

2020-09-14

ノンフィクション翻訳からフィクション翻訳へ

著名な文芸翻訳家の方たちの御訳業を拝見すると、みなさん得意とされているジャンルをお持ちです。同じジャンルの作品をずっと訳し続けていれば相性の合わない作品も、超難解な作品もあるだろうし、根気のいる、大変なことだと思います。これと決めたジャンルのどんな作品にも食らいついていくくらいの覚悟がないと、小説の翻訳はできないのかもしれないと、うすうす感じてはいます。小さい頃、手当たり次第に児童書を読みあさったとか、若い頃からミステリーばかり多読してきたという方がたくさんいらっしゃる中での競争です。私など最初から勝ち目はありません。それでも、私も最初に翻訳家を目指したきっかけが小説だったものですから、いまだに、いつかまた小説を訳したいという気持ちを棄てられずにいます。


問題はどのジャンルをやりたいのかです。


二十数年前、しばらく続けた産業翻訳から出版翻訳に足場を移すにあたって、まずノンフィクションから入りました。産業翻訳の延長線上にあって心理的な垣根が低かったからです。ノンフィクションの書籍翻訳ではとくに専門知識のない翻訳者にもいろんな分野の仕事が回ってくるので、そのたびに勉強しなければならず、幅広い知識に触れることになって、それが楽しくもあり、大変でもあり、おおいにやりがいを感じてしばらく続けてきました。ですが、10年ほど前から急に、胸を打つ感動作や強く印象に残る作品、ちょっとおかしな話、要するに物語を訳したいと思うようになりました。


フィクションの翻訳家を目指すにあたっては、やりたいジャンルが決まっていたほうが、その先ものごとがスムーズに進むに違いありません。ですが、どのジャンルを見ても、そのジャンルに集まる方たちの熱量がすごすぎて、なかなか足を踏み込めずにいます。どのジャンルにも好きな作品はあるのですが、熱意が足りず、特定ジャンルに深くのめり込めないのかもしれません。


そんなこんなで迷っていたら、一般文芸という、ジャンルを超越した言葉に出会いました。一般文芸がどの辺りの作品を指すのか、正直まだよくわかっていません。エッセイなど、ノンフィクションも一部含まれるのではと思います。が、とりあえず残り少なくなった人生、ジャンルを特定せずに文芸翻訳家を目指してがんばります。というわけで何年か前からリーディングの仕事ではできれば小説をとお願いし、日々英語圏の小説を読んで、面白い作品を探しています。よい作品はいくらでもありますが、自分にぴったりくる作品にはなかなか出会えません。出会うまで、これからも読み続けます。

注記)ジャンルは決められなくても、苦手なジャンルははっきりしていて、バイオレンスとロマンスにはあまり興味が湧きません。


 

2020-09-09

移住願望:山の近くで暮らしたい

毎日、暑い。まだまだ暑い。

暑さと湿気に弱くて、夏が来るたびに移住を考える。標高1000mくらいの高原にある林の中で暮らしたい。庭には菜園があって、春が来れば野菜もつくる。あこがれの晴耕雨読の生活だ。


今はインターネットさえあれば、仕事はどこでだってできる。書店での買い物や図書館での調べ物は、生活必需品の買い出しのついでに麓の町で済ませればいい。


実は去年の5月に、ひとりで松本まで下見に行った。だいぶ前から夫を説得しているものの、なかなかうんと言わず、実力行使に出てみたら態度を変えるかもしれないと期待して。あの町は観光ですでに何度か訪れていて、何でも揃っていて便利で住みやすそうだ。上高地も近い。高校時代に長野に住みたくて、一時期、長野の大学を狙っていたくらいだ。しかし、ひとりで電車で出かけたので、松本駅からそう遠くない場所にある不動産屋さんを覗いただけで終わった。まずはアパートに引っ越して、それから定住先を探すのもありかと思う。物件の数はそれほど多くないが、選べなくはない。松本の隣の南松本駅近くには大きなマンションも建設中だった。


お父さんが松本出身だという友人は、あそこは冬、寒いよと脅すけど、大丈夫、昔、留学で2年暮らしたアメリカの街は、キャンパスにいながらダイヤモンドダストが舞う豪雪地帯だったけど、寒さはわりと平気だった。


残念ながら、松本から帰ってきたあと夫の不機嫌攻撃に遭って、移住プロジェクトは一旦中断。だけどまだ諦めないぞ。

2020-09-04

翻訳小説の棚が(これ以上)減ると困るので

都心や大きな街の大型書店ではそれなりに翻訳小説の品数を揃えているのでなかなか気づきませんが、近所の小さい書店や古書店では、翻訳小説の棚が少しずつ減っています。世間ではもうずいぶん前から出版不況に加えて、翻訳小説離れということが言われていましたが、フィクションの翻訳にかかわる機会が少なかったこともあって、自分の痛みとしてひしひしと感じることがありませんでした。あるいは出版不況の大きな流れの中でのできごとで、翻訳小説に限ったことではないと思っていたのかもしれません。

2012年夏、北海道の天売島に行ったときのこと、島からのフェリーがH町に着いたあと時間があったので本屋に立ち寄り、店内をざっと回って、翻訳小説を探しました。その店にあったのは、その年の6月に出たばかりの柴田元幸さんが訳されたマーク・トウェイン作『トム・ソーヤーの冒険』と松永美穂さんのベルンハルト・シュリンク作『朗読者』(どちらも文庫)の2冊だけでした。『トム・ソーヤーの冒険』はたまたまその旅に持っていき、読み終わったあと天売島の宿に置いてきた本と同じものでした(たまに、書棚がある宿に読み終わった本を置いてきます。邪魔だからではなく、読んでくれる人がいるかもと思って)。置いてきたばかりの本に再会した偶然に喜んだのも束の間、翻訳小説が2冊きりという光景は衝撃でした。その旅では新鮮な海鮮を味わい、幻想的なウトウの帰巣を見学し、楽しい思い出に浸っていたのに、一気に現実に引き戻され、浮かれた気分が一瞬で吹き飛んでしまうほどでした。


北の果ての小さい町とはいえ、フェリーの発着場があり、そこそこ人の往来もある土地です。出版社の営業さんも北海道まではそうそう来られないでしょうから仕方がないのかもしれませんが、翻訳小説は積極的に売らないとここまで求められなくなっているのだな、と実感し、悲しくなり、その気持ちを静めるために、未読だった『朗読者』を購入しました。


翻訳小説はもともと月に何冊か読んではいましたが、あのときのことがショックで、それ以来、翻訳小説はできるだけリアル書店で買うようにしています。私が購入できる数などたかが知れていて、荒波に向かって犬かきするようなものだとしても、何もしないよりはましと自分に言い聞かせて。これまで半世紀のあいだ私の人生を豊かにしてくれた翻訳小説がもっと読まれてほしい。あれから8年、状況はますます厳しくなっているように感じますが、ささやかな応援をこれからも続けます。

2020-08-31

健康のためにヨガを

音読のほかにもうひとつ、日課にしていることがあります。

簡単自己流ヨガです。


ヨガの効用について知ったのは、以前訳した心身の健康に関する本(『心のパワーで体を癒す』)でした。その仕事が終わったあとで効果のほどを実際に試してみようと思い、市が体育館で開いていたヨガ教室に参加してみたのですが、教室のあとは毎回、気持ちがリラックスして体が軽くなり、頭もすっきりすることに気がつきました。続けるうちに体調もよくなっていました。何より驚いたのは、趣味のハイキングに行ったあと、以前ほど疲れなくなっていたことです。子供の頃から体力がなく、運動にはとんと縁がありませんでしたが、そんな私でもヨガは無理なく続けられたし、山歩きもますます楽しくなってきて、時間ができると歩きに行くようになり、体力と持久力がついてきました。


市のヨガ教室でも十分な効果を感じましたが、生徒が大人数だったので、ひとりずつ丁寧に見ていただく時間はありません。それで少し物足りなくなり、少人数制の教室を探して、丁寧に見てくださる先生と出会いました。長年本格的にヨガを学んでおられる素晴らしい先生でした。


子供の頃、病気がちでしょっちゅうお医者に連れていかれたせいか、薬嫌いになり、体が本来備えている自然治癒力や回復力といったものに興味を持つようになったのですが、ヨガを続けるうち自分が健康になっていくのを体感できて、それが何よりうれしく、続けるモチベーションになりました。できれば長く続けたかったのですが、その後、先生が教室を開設され、そこが少し通いづらい場所だったため足が遠のいてしまい、それきりレッスンを再開するきっかけを見つけられずにいます。


教室に2、3年ほど通って、簡単なポーズだけは覚えたので、今も自己流で毎日15分ずつ続けています。月に2、3度、1時間半、指導を受けていたときは、緩やかなポーズから負荷のかかるポーズへ、そしてまた緩やかなポーズに戻って最後に瞑想するという一連の流れをこなすことで、終わったあとの爽快感が素晴らしく、自己流ヨガではその域にはなかなかたどり着けませんが、しばらく休むとてきめんに調子が悪くなるので、もはややめられない習慣となりました。ヨガの効用を教えてくれた本はあいにくすでに絶版ですが、ヨガと出会うきっかけを作ってくれたことを、今でも感謝しています。指導してくださった先生方にも、もちろん感謝しています


本は中古でしか入手できませんが、この本の著者である精神科医のリック・リーヴィ先生は下記のサイトで催眠と瞑想のガイダンス音声を無料で公開しているので、英語のわかる方は試してみてください。ただし、途中で眠ってしまうといけないので、車の運転中など、危険を伴う作業中は聴かないようにお気をつけください。


The Levy Centers for Mind-Body Medicine and Human Potential

2020-08-28

タイトルは、そのまま訳しただけでは伝わりにくい

家にいる時間が増えたので、テレビの前にいる時間がつい長くなります。NHK BSで放映される名画を録画しては、週末に観るのが楽しみのひとつとなりました。

先日は『遙か群衆を離れて』というイギリス映画を観ました。原作はトマス・ハーディの小説。この作家の小説はいくつも映画化されています。


『遙か群衆を離れて』って、あまりぴんとこないタイトルだ、内容を表しているようには思えないけど、どういう意味だろうと気になって調べたら、原題のFar from the Madding Crowdは詩の一節なんですね。トマス・グレイという詩人の傑作 Elegy Written in a Country Churchyard からとったものだと、ウィキペディアに書いてありました。かなり有名な詩のようですが、知りませんでした。


映画のタイトルに使われた一節の入った連はこんな感じ。


Far from the madding crowd's ignoble strife, 

         Their sober wishes never learn'd to stray; 

Along the cool sequester'd vale of life 

         They kept the noiseless tenor of their way. 


詩の全文はこちら、長いです。私の英語力では、流し読みしただけでは意味がとれません。


岩波文庫から翻訳が出ていました。

『墓畔の哀歌』(トマス・グレイ、福原麟太郎訳)


名も無き農夫たちの墓に寄せた詩。それなら映画の内容とつながります。この詩を誰もが知っていて、Far from the Madding Crowdという一節を見て、詩全体の内容が浮かぶ、という状況だからこそのタイトルのようです。邦訳が見つかったら、詩をじっくりと読んでみることにします。


映画に限らず邦題をつけるのは難しい。

2020-08-26

ワインのガイドブックの下訳

今から二十数年前にワインのガイドブックの下訳をしたことがあります。その頃、私にとってワインは少し改まった機会にレストランで食事をするときに飲む、ちょっときどった飲み物でしかなく、詳しくはありませんでした。それでもほかのお酒より好きだったので、そのお仕事を受注して、とてもうれしかったことを覚えています。ワイン関連の翻訳がどれほど大変か、そのときはまだよくわかっていませんでした。

それは世界のワインとワイナリーを紹介する本で、英語以外にフランス語、イタリア語、スペイン語、ポルトガル語、ドイツ語だけでなく、ギリシャ語やハンガリー語といった、なじみがなく、スペルを見ても発音を推測できない固有名詞が出てきて、調べ物の山。ネットの情報は今ほど充実していなかったし、資料はあれこれ集めましたが、それだけでは全然追いつかず、締切までになんとか仕上げたものの、かなり不本意な出来でした。あとでチェックをしてくださった方にもずいぶんご迷惑をおかけしたに違いありません。

その本に出ていたお値打ちワインを買ってきて、家でひとり飲みして悪酔いしたこともありました。今だったらもう少しまともに訳せたはずと思えるくらいには、あれから本を読み、お手頃ワインを中心に、いろんな国のいろんな銘柄を飲んできました。カリフォルニアに旅行したときは、ワイナリーツアーに参加して、はじめてワインの製造工程やセラーを見学したのですが、そのとき知り合った台湾人の女性は、カリフォルニアの大学で醸造学を学んでいる学生さんでした。


その後、国産ワインもずいぶん生産者が増え、旅行先でワイナリーに立ち寄る楽しみができました。日本のワイン醸造発祥の地である勝沼のほか、これまでに伊豆、塩尻、松本、安曇野、東御、小布施、足利、新潟、花巻、紫波、余市などのワイナリーを訪ねました。なかでも勝沼にはワイナリーがたくさんあり、1日で何カ所も回って試飲を楽しめるので、秋はとても賑わっています。

大変な仕事だっただけによく覚えているし、あの経験をきっかけにますますワインが好きになり、世界も広がりました。たいして量は飲めませんが、今も週末はたいてい赤ワインを楽しんでいます。今は気軽に旅行もできず、ワイナリー巡りができる日が戻ってくるのを心待ちにしています。ワインの専門書を訳す機会はもうないでしょうが、小道具にワインの出てくる小説はいつか訳してみたいです。


勝沼のメルシャン・ワイン資料館



2020-08-23

お世話になった機械たち

これまで私の仕事を支えてくれた相棒たちです。

シャープ書院

富士通オアシス

Apple SE30

Apple LC630

Apple Power Mac 7200

Apple iMac Graphite

Apple iBook

Apple MacBook

Mac mini

Mac mini (M1, 2020) 


富士通オアシスはアメリカ留学時に持っていき、帰国するときは在学中に学生から安く譲り受けたSE30を船便で送って日本でもしばらく使っていました。以来27年、Macと苦楽をともにしてきました。


2012年に買ったMac Miniは現役でがんばってくれています。今のところ快調です。ディスプレイはMITSUBISHIで、こちらも快調。昔は眼精疲労によるひどい頭痛と吐き気で年に1、2度、寝込んだものですが、そういうこともめったになくなりました。


原書リーディングの報酬について思うこと

しばらく前に、原書のリーディングの料金についてツイッターで話題になっていました。ざっと要約すると、リーディングの仕事は大変で時間がかかるので、報酬が安すぎるのは問題だという内容でした。何人かの方からいろんな状況のご報告がありましたが、おおざっぱにまとめてしまってすみません。

はじめてリーディングの仕事を受けたのは25年ほど前、それからしばらく、リーディングの仕事は翻訳エージェントや編集プロダクション、翻訳学校などを経由しており、報酬は5000円から1万円程度。予定していた支払いがないことはたまにあったし、レジュメを書いても、翻訳の仕事が回ってくることはまずありませんでした

10年ほど前に出版社や版権エージェントからこの仕事を受けるようになってようやく、人並みの報酬をいただくようになりました。なので、かなり長い期間、低めの料金で仕事を受けていたことになります。たまに2、3日で読めてしまう本もありますが、300ページを超える原書を1冊読んであらすじをまとめるのにたいてい2週間以上かかるので、さすがに5000円は割に合わないと今は思います。

ただ、報酬の相場が上がると、リーディングを経ずに邦訳出版を検討する事例が増えはしないかといらぬ心配をしてしまいます。ずいぶん前に本の翻訳が終わったあとで出版が取りやめになり、原稿がお蔵入りという事故を2度経験したのですが、いずれの場合もリーディングの工程を省かれて、翻訳原稿を読んでみたら思っていた内容と違ったというのが原因のようでした。

こうなることを防ぐためにも、リーディングは省かないでいただきたいものです。

リーディングに関してはむしろフィードバックがほとんどないことが残念です。長い時間をかけて書いた文章に、何かひと言でも感想をいただければ、レジュメを書く際の参考になるし、つぎのご依頼もお受けしようという気になります。

数えるほどしか訳書のない私のような翻訳者が意見を述べるのはおこがましいですが、リーディングはそれなりに数をこなしてきたので、思ったことを書いてみました。お蔵入りの件については書いてよいものか迷いましたが、どちらもすでに時間がたっており、関係者にご迷惑がかかることもないだろうと判断しました。この手の事故を避けるために、参考にしていただければさいわいです。

2020-08-22

しあわせな老後のために:読書椅子を買いました

外出が不自由な生活は当分終わらないだろうと思い、思いきって念願の読書椅子を買いました。

村上春樹さんが、しあわせな読書生活を送るためには座り心地のよい読書椅子が必要(うろ覚え)というようなことをどこかに書かれていたのを読んで以来、ずっと探し続けてきたのですが、これぞという椅子がなかなか見つからず、決めるまでにはずいぶん時間がかかりました。


アメリカに留学していたとき、図書館にいろんなタイプの読書椅子があって、ボックス型のアームチェアがとても快適でした。あれと似た椅子がないかと家具店を何軒も回ったのですが、カフェやホテルのロビーではよく見かけるそのタイプの椅子を扱っている家具店に、なぜかなかなか巡り会えません。いいなと思うと、輸入品で目の飛び出るようなお値段だったり。


日本の一人掛けソファにはリクライニング機能がついているものが多いようですが、テレビの前でのんびりくつろぐのならともかく、読書椅子は背もたれや座面があまり傾斜していると、体の一定の場所に負担がかかりすぎる気がします。


それから、肘掛けは立ち上がるときに体を支えるためではなく、ちゃんと肘を置けるデザインが好み。重たい本を持った腕を支えるのに、肘掛けが低くて細いと不便です。


でも、今買わなければもう一生、読書椅子は買わないような気がして、お気に入りの家具店で思いきって決めました。手に入れた椅子も100%希望どおりではないので、あとは体のほうを慣らしていくことにします。届いて1カ月、だんだんなじんできました。今まで家で本を読むときは仕事机かベッドだったので、読書のためのちゃんとした場所ができたのがうれしい。日本製のしっかりとした椅子で、長く使えそう。これでこの先、仕事がなくなってもうろたえることはありません。楽しい積み本崩しの日々が待っている


読書家の方たちがどんな椅子で、どんなふうに読書しているのか、読書家の本棚以上に興味が湧きます。


2020-08-21

音読のすすめ

毎日朝一番にしていること、静かめの音楽(3年前からほぼ毎朝同じCD)をかけて短い日記を書いたあと、本を音読します。そうすると、ぼーっとしている頭に少しずつ血が巡ってきます。今読んでいるのは串田孫一『若き日の山』(山と渓谷社)。エッセイが多いですが、小説も読みます。岩波文庫の日本児童文学名作集(上)に入っている巌谷小波の『こがね丸』なんか、リズムがよくて勢いがあるし、夏目漱石の『吾輩は猫である』や『坊っちゃん』も声に出して読むのが楽しかったです。

音読を始めたのは10年ほど前、毎朝の習慣にするようになってほぼ5年。思いがけない恩恵として、翻訳をしているときなど、頭の奧に埋もれていてなかなか出てこない日本語の単語が、以前よりだいぶすんなり出てくるようになりました。忙しいときはこの日課を省くこともありますが、もはややめられない習慣となりました。